• 遠藤雅俊さん(右)と、関川裕太さん。協力:INTER STUDIO

まず「DZ-TOP」の概要から教えて下さい。

遠藤:スタジオD21というレンタルスタジオが母体ですが、「DZ-TOP」はそこから派生・独立した「制作部署」になります。
もともとは、スタジオを使用されるフォトグラファーの方々の依頼を受けて、レタッチの作業を請け負っていましたが、今はスタジオ業務とはまったく別に、撮影やレタッチの仕事をDZ-TOPで受注しています。
現在フォトグラファーは中田輝昭と自分の2名、レタッチャーは関川と堂東由香の計4名の構成です。

関川:基本的には外部からDZ-TOP側に直接依頼される事の方が多いですね。ただ事務所がD21内にあるので、スタジオで撮影されていたフォトグラファーが、そのままレタッチ依頼のための画像を持ち込まれる事もあります。

スタジオとは別に「撮影」の仕事として単独で依頼される事が多いのですね。

遠藤:そうですね。レタッチ単独の仕事もありますが、僕や中田が依頼されて撮影した画像を、即レタッチサイドに渡せるので、作業をスムーズに進める事ができます。
フォトグラファーのすぐ側にレタッチャーがいて、常にコミュニケーションがとれるので、良いものを早く仕上げる事ができます。 撮影からレタッチ、納品まで「ワンストップで済む」というのが、セールスポイントです(笑)。

後は、撮影していて、「ここを画像処理したいのだけど、どうしたらいいんだろう?」という場合も、レタッチャーに立ち会ってもらっていれば、すぐに意見が聞けるのがいいですね。商業印刷の仕事が多いので、「どういう風に撮れば、印刷でベストな色が出せるのか」という相談を撮影段階からできるのは、非常にメリットがあります。

ところで「DZ-TOP」とはどういう意味ですか。

関川:「D」はDigitalのD、「Z」って、アルファベットで「最終の」「終わりの」という意味があるじゃないですか。なので、「デジタル画像で完成度の高いビジュアル制作を目指す最後の拠り所」、という意味ですね(笑)。

バックボーンとしてスタジオがあるので、撮影、ロケアシ、機材という点でも、メリットはありますね。

遠藤:中には人手がいる撮影もありますよね。そういう場合にスタジオから自社のアシスタントを調達してロケ現場へ連れて行けるとか、必要に応じて照明機材を調達できるとか...。レンタルスタジオがバックボーンにあるので、マンパワーや機材面でも柔軟に対応できます。

得意分野はあるのですか。

遠藤:撮影に関して言うと、中田の方が人物と食品(料理)関係が多いですね。僕の方は商品撮影の仕事が多いです。

関川:レタッチサイドとしては何でも受け止めます(笑)。広告だと、車から人物から化粧品から、全てのジャンルで依頼されるので、得意分野というよりも、その仕事で望まれている要求を理解して一つ一つの案件に応えていく、という感じです。

遠藤さんが撮影で大事にしている事は何ですか。

遠藤:僕の場合は、ADからの依頼が多いんですね。最初の依頼があった際に、最終的なアウトプットを目指して「スタート時点でどこまで咀嚼して理解できるか」がポイントだと思っています。
そこで最終イメージが見えれば、現場でどのように撮れば最終的な絵に近づけられるのか、またそれ以上の仕上がりを目指すにはどのようにすればいいのかが、明確になります。
画像処理や合成が前提の場合も、可能であれば"素材"を撮って、できるだけ写真から加工していく方がいいと思っています。

関川:レタッチは、お客さんとのやりとりで「抽象的な言葉」が飛び交う事が多いんです(笑)。そのため、最初にまず「相手を知ること」が重要です。「この人の少し明るい」は、これ位とか、「この人の暗い」はこの位とか...。

それが人によって全然違うんですね。そこをまず、この人はどういう濃度やトーンが好きで、どういう写真が好みなのか、「人」を理解するのが大切ですね。
慣れないうちは、何パターンも見せて、好みを覚えていくところからスタートしますが、レギュラー化して続いていくと、スムーズに仕事が進む事は多いです。

関川さんもスタジオD21でアシスタントをされていたのですね。

そうです。スタジオスタッフの時代から、デジタルオペレーターばかりやっていました。ちょうどフィルムからデジタルへの移行期だったので、撮影した画像のレタッチを頼まれる事が多く、出来もしないのに、「できますよ」って引き受けて(笑)。Photoshopやレタッチテクニックは、現場をこなしながら独学で学んでいきました。

現場は見られるのですか。

関川:そうですね。できるだけ撮影現場には立ち会うようにしていますし、撮影時のオペレーターとして入る事もあります。

DZ−TOPの「撮り下ろし+レタッチ」の作品として、2点新作を出して頂きました。まず車のビジュルからコンセプトを教えて下さい。

遠藤:もともと弊社で、フィアットやアルファロメオのカタログのお手伝いさせて頂いているので、そういう流れで、「車がいいようね」というところから始まりました。
今回は、「撮影とレタッチを半々位の比率にしたい」ということと、「疾走感」をテーマに制作しました。

CGっぽくするのではなく、写真っぽさを残したいという思いから、色々検討してこのようなビジュアルに仕上げました。 当初は3Dマッピングも考えたのですが、プロジェクターで絵柄をボディに写し込むと、緻密さを感じないというか、静止画だと粗く見えてしまうんです。動画で見る分にはいいと思うのですが。
ボディのディテールも見せたいと言う事もあったので、関川と話し合いながら「疾走感」を出すために「風」を視覚化しよう、と考えました。

関川:「光の軌跡」を素材として撮影してもらっているので、それを光にも見えて風にも見えるような形に仕上げました。ボディの映り込み部分にも光を歪めて入れています。

遠藤:時間的な制約もあり、車の撮影現場で写り込みの素材はあまり撮れなかったので、後日、光の素材だけを別撮りしています。実際に煙をおこして風を吹かせ、実車を撮影しても、理想的な絵になり辛いんですね。それよりも見た目でカッコイイ感じに仕上げました。
ポルシェはテールランプからフェンダーにかけてのラインが美しいので、そこを艶っぽく見せたかった、というのはあります。

関川:ディテールにリアリティを持たせるよりも、今回はイメージカット的に雰囲気を重視した形で見せています。視点が車にいくように、合成用の道路とか背景は、あまり印象を残さないようにしています。

化粧品のイメージカットについて教えて下さい。

遠藤:ランコムの美容液を被写体にしました。ランコムはブルー系のイメージが強いですが、そこではないインパクトをつけたいと思い、バックは印象に残る赤を選択しました。

ステンレスの板の上に置いて、写り込みがキレイに流れるアングルを見つけ、ライトの位置を探りながら調整して一発撮りしています。広告的なアプローチだと、ロゴが逆になるのはNGだと思うのですが、今回は作品撮りと言う事でこのように配置しています。

関川:化粧品やコスメ系は、柔らかい光で撮る事も多いのですが、ここではコントラストを高くしてインパクトのあるビジュアルを目指しました。地色が赤だと、商品の上部に赤いラインが映り込むのですが、そこはレタッチで処理しています。

遠藤:映り込みを含め、ベストなアングルを見つけ、そこからライトを組んで詰めていきました。こういった共同作業ができるのが、DZ-TOPの強みだと思います。

Making Report

  • 川崎のインタースタジオに、ポルシェ911を搬入して撮影。 HMI数灯でライティング。アングルを探りながら、遠藤さんがライトの位置を指示していく。
  • 撮影した画像をモニタで見ながら、シミュレーションをするレタッチャーの堂東由香さんと、関川裕太さん。
  • 左/後日、光の素材だけを実写で撮影。それらを合成用素材として加工していく。
    右/レタッチルームで打ち合わせ。同じ場所にフォトグラファーとレタッチャーがいることで、コミュニケーションが早い。
  • 化粧品をスタジオD21内で撮影。社内にスタジオがあるので、急ぎの撮影にも対応できる。